Diving World 1999/7
妊娠中にダイビングは可能なのか

1.妊娠中にダイビングは可能なのか。

これは、母体への影響と胎児の影響を考えなくてはなりません。母体への影響はといいますと、まず妊娠初期にはつわりが起こる人がいます。脱水症に陥ってしまうと減圧症のリスクが上がり、また潜水中の嘔吐は慣れない人には危険です。また妊婦さんはホルモンが多くなり、これによって体に浮腫が起きます。耳抜きがしにくくなったり、浮腫でも減圧症のリスクが高まります。妊娠後期には子宮が肺を下から押し上げ呼吸が制限されるため、浅い呼吸が強いられて、酸素欠乏や二酸化炭素血症を起こし得ます。わずかでも破水すれば、海水によって羊水が感染するかもしれません。次に胎児に対しての影響はというと、もっと深刻です。肺呼吸を必要としない胎児の血液循環は特殊で、ほとんどの血液は右心から肺を通らずに、動脈管という血管を通じて直接左心へ流れます。母体に窒素の気泡が出来るような状態になると胎児にも気泡ができ、少量の気泡でも肺というフィルターを利用できずに全身へ送られてしまうため、塞栓症を起こします。さらに、母体には影響しないようなサイレントバブルと呼ばれる小さな気泡ですら、小さな胎児からすると塞栓症になりうる大きさの気泡です。また、母体がナイトロックスなどで酸素中毒に陥ったり、チャンバーで治療を受けたりして高酸素分圧になると、前述の動脈管が閉塞して胎児が死亡したり、網膜が剥離して失明し得ます。そして、妊婦のダイバーでは未熟児の出生率が通常の約3倍に、先天奇形の発生率が約6倍であったとの報告があります。全妊娠期間中は潜水禁止というのが現在の潜水医学上の通説です。しかし妊娠のごく初期では、問題が起きた報告はありません。ダイビング旅行後に妊娠が判明した場合はあまり心配しないことですが、一応産婦人科の先生には報告しましょう。

2.生理中のダイビングはどんな影響か。

結論からいうと、生理中にダイビングをしても全く問題ありません。ただし、痛みがひどかったり、精神的に不安定になるような場合は考え物です。痛みの場合は鎮痛剤で解決しますが、市販の薬は色々な成分が混ざっており、潜水に不向きな成分が入っていることがあるのでやめておいた方がよいでしょう。医者が処方する純粋な成分のものをお勧めします。時々、生理中の出血でサメにおそわれるのではないかと心配される方もありますが、統計的にはサメに襲われた人は男性の方がずっと多く、根拠がありません。しかし女性の場合、通常4週間のうち1週間は生理とお付き合いしなくてはならず、言い換えると1週間のダイビング旅行ならば4人に一人は生理にあたるということになり、女性にとっては憂鬱な悩みです。こんな時には婦人科の先生にご相談して、薬を使って生理を遅らせるか早めてしまうのが便利です。従来、ホルモン剤を使うので血液粘張度が高まり、減圧症のリスクが高まる可能性が指摘されていましたが、最近の物はかなり安全性が高いので心配ないでしょう。薬を使って生理周期をずらすことに抵抗がある方は、生理用品で潜っても問題ないのですが、ドライスーツの場合はよいとしても、パットタイプの人が量の多い日にウエットスーツで潜るならば、潜水直前やエキジット直後にトイレへゆけるよう、インストラクターにお話しておけばよいでしょう。そうすれば別にタンポンタイプでなくても良いはずです。最近、タンポンの利用率の増加に伴い、重い生理や不妊が起きる子宮内膜症という病気が増えていますので、パットタイプの方がわざわざダイビングのためにタンポンをチャレンジするのはお勧めしません。

3.女性特有の悩みやそれに対処する方法、注意点など

女性は男性と比べると筋力が無く、脂肪の割合が多い。これは女性ホルモンのためですが、その結果、利点と欠点があります。筋力については無重力状態のダイビングにおいて、よほどの流れでもない限り水中では大した差にはなりませんが、地上においての差は歴然としています。タンクを担いでのエントリー、エキジットは転んだり、肉離れをしないように十分な注意を払いましょう。そのかわり酸素消費量は少なく、エアーの持ちがよいので、その分でカバーできることもあると思います。また、脂肪の多い分、体温喪失は少なくハイポサーミア(低体温症)には陥りにくい上、体積あたりの浮力も大きいので、水面に浮いている能力は優れています。しかしその反面、脂肪組織は窒素のとけ込む量が多く、減圧症のリスクが男性よりも高いといわれています。アメリカ空軍の低気圧環境への暴露実験では、女性の方が男性よりも4倍の減圧症発生率であったとの報告がありますが、実際のダイビングでは無茶をするのは男性であるとか、女性ダイバー人口の方が少ないなどの因子を含めないために、日本においては男性の方が減圧症患者は多いのが事実なので、その事実関係ははっきりしません。ダイビングコンピューターの計算データーも女性と男性の平均でとっていることが多く、女性はより安全率をかけた潜水方式の方が安心でしょう。そのほかにも、女性の方がヒステリーが多いように精神的不安定になりやすく、ハイパーベンチレーション(過換気症候群)に陥るのも女性の方が多いようです。体調を万全にし十分な睡眠をとるなどしてストレスを無くし、精神的にも安定して潜れるように心がけましょう。

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