Diving World 1999/4
低体温症の症状、怖さと具体例

1.低体温症の症状、こわさと具体例

空気中と比べ、水の中では20〜25倍の速度で体温は奪われます。体の中心部まで冷え込むと低体温症(ハイポサーミア)に陥ります。直腸温で35(C以下(正常37(C)になった場合を言いますが、36(C前後においても人によっては判断力や繊細な運動能力の低下があると言われています。体温が2(C下がると、止まらない震えが起こります。思考がスムースにいかなくなり、泳ぐ能力も低下します。3(C低下すると、会話が困難になり、身動きがとれなくなります。4(C以上低下すると意識がなくなり、不整脈にて死亡します。水温からみた生存可能時間は0(Cでは1時間、15(Cでは6時間、20(Cになるとほぼ無制限に生存可能といわれています。二次大戦中、艦船の沈没や飛行機の墜落によって海に投げ出された兵士の死因は溺死ではなく、ほとんどが低体温症であると分析されています。以前、7月の終わりに関東の近海で潜水し、意識がもうろうとして動けなくなったダイバーが浮いているのを助けられたことがありましたが、このダイバーは下調べをせずに3ミリのシーガルしか用意しておらず、水温が17(Cと寒かったのに我慢をし、低体温症になったのです。最近のダイビングでは、流氷ダイビングなどではむしろ厳重な装備や潜水時間を10〜15分にするなどの注意をするため、低体温症になった話はあまり聞きませんが、それよりも暖かい南の海で反復潜水する事によって起こる軽症の低体温症が大変多いようです。長時間潜水しても低体温症にならない水温は33〜35(Cなのです。水温が高いと言っても32(C以下が多いと思いますが、冷え込む事に対してノーケアーな人が多いと思います。南の島で現地ガイドをやっている人でも寒がりな人(厳重な装備の人)が多いと思いませんか?皆さんも南の海で潜っていて、水温29(Cなのに寒く感じることはありませんか?震えだしたら低体温症の始まりのサインです。潜水を中止しましょう。

2.低体温症の処置

軽症から中等症の場合、まず濡れた衣服を取り除き、毛布をたくさん掛けるなどにより熱損失をさけます。それから外部から暖めるため、電気毛布や携帯用カイロを使ったり、38〜40(Cのお風呂に入れることです。また、温かい飲み物も内部から暖まり、良いでしょう。しかし、アルコールは血管を拡張させ、かえって熱放射を大きくさせるので悪化します。このほかに、一般的に言われている方法のうちであまり効果が望めないとされているものには、熱いシャワーをかける、人肌で暖める、皮膚をこするというものがあります。熱いシャワーは与えられる熱量は少ないのに体表面のみが暖まり、血管が拡張して熱放射が大きくなるのです。人肌で暖めたり皮膚をこすってもほとんど効果はありません。先月号でのQ&Aにもありましたが、潜水直後の風呂による減圧症のリスク上昇と、低体温症の治療という面では相反するところがありますが、低体温症がはっきりしていれば、減圧症がよほどのハイリスクで無い限り風呂に入れるべきでしょう。肥っている人は皮下脂肪が厚く、痩せている人よりも低体温症になりにくいのですが、だからといって肥満体の方がダイビングに向いているわけではないのと似ています。
重症の低体温症では、呼吸数の低下、血圧や心拍数の低下が著しく、素人目には一見死んでいるように見えます。心肺蘇生法を行いながら暖めてゆき、体が暖まっても死亡していることがはっきりするまで絶対にあきらめないことが肝心です。

3.低体温症の防御策

潜水中に喪失する体温は、呼吸によるものと、皮膚を通して失われるものに分けられますが、呼吸は飽和潜水の時などに関わる事なのでここでは省略します。潜水時の保温(防寒)装備としては、ご存じのようにウエットスーツとドライスーツに大別されます。ウエットスーツは裸の時に比べて熱損失の速度が緩やかですが、長時間では結局裸と同じ熱損失量になります。ですから、水温から潜水時間を考えるように気をつけて下さい。手足は低水温によって血管が収縮して熱の損失を防ぐ働きをしますが、頭部はそのような機構が無く、一番熱が奪われやすい所なのです。ですから冬場や寒く感じるときにはフードの装着が有効です。セミドライスーツは濡れてはいても水の対流を遮断することにより、ウエットスーツよりもより熱損失時間が延長され、より有用です。しかしドライスーツの保温力は比較にならないほど優れており、現在冬場や流氷ダイビングでも低体温症に陥ることなく潜水ができる装備として重要です。水温が何度からドライスーツを着用すべきかは体型や性別、年齢によって相当な個人差がありますし、また流れや運動量といった条件によって一概にはいえませんが、一般的には水温20(C以下はドライスーツがよいのではないでしょうか。
次に、潜水中に寒さを感じてきたとき、どの様にすれば良いのでしょうか。連続した震えが起きたらばもちろん潜水を中止すべきですが、その前でしたらじっとしていることが一番良いのです。運動することによって確かに熱産生量は増えますが、25(C以下では、体の周りの水をかき回す事による対流の増加、血管が拡張する事による熱損失量の増加の方が上回ります。体温保持の面からは動かないことです。

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