Diving World 2002/02
寒いのに潜りつづけて、ガマンしていると、おこる弊害

1、おこりうる症状、現象

空気中では快適に過ごせる温度であっても、水中では寒く感じます。なぜならば、空気中と比べて水中では熱の伝導が20倍以上早く伝わるからです。寒いのに我慢して潜っていると、酸素摂取量が増え、空気の消費が数倍早くなります。また、判断力が低下したり、手先が冷えてBCDなどの繊細な操作が素早く正確にできなくなる、運動能力が低下するなどで、危険を伴うことも。また、頭痛がしたり、ひどい人は吐き気まで起きます。その他には下痢をしたり、生理痛がひどくなることも。手足の動きが鈍くなる、判断力が低下する、頭がボーっとしてくる、震えが始まるなどしたら注意信号。すぐに潜水を中止してエキジットし、暖をとるべきです。

2、どの位の水温で寒く、危険か?

人間が裸で震えることなく、快適に長時間過ごせる水温は、33〜35度。それ以下の場合、後述のハイポサーミアになり、軽微であっても、判断力や繊細な運動能力が落ちてきます。水温20度ぐらいでは、中等度のハイポサーミアに陥るものの、何時間水中にいても命の別状はありません。しかし、水温15度では生存可能時間は6時間なので、冬の日本近海では身近な話です。水温が0度になると、1時間で死亡します。

3、体温が低下する要因

水温が低ければ低いほど、水中にいる時間が長ければ長いほど熱損失量は大きくなります。それゆえに、深く潜れば潜るほど水温が下がり、潜水時間ものびて寒くなるのです。また、水流や動きによる水の撹拌によっても熱放射量が増えて冷えます。反復潜水では、1本目よりも2本目の方が寒く感じませんか?それは、1本目で冷えた体の深部が快復していないうちに潜るからです。また、運動することによって体を温めようとするとかえって血管が広がり、熱放射量が増えます。体格の点からいうと、皮下脂肪が厚く太った人の方が、やせている人よりも保温性が高いのです。また、アルコールは血管を広げ、熱放出量が大きくなるのでもちろん厳禁です。

4、体温の変化。ウエット、ドライ。スーツによる違い。

厚さによる違いウエットスーツを着ていると、水の撹拌による放熱が少なくなり、さらには肌が直接水に触れる部分が減るため寒さを感じにくくなり、体が冷えるまでの時間がかなり長くなる。裸では4時間しか生存できない10度の水温でも、薄手のウエットスーツでは40時間以上死亡することはなく過ごせます。もちろん厚手のウエットスーツであればあるほど断熱効果が大きくなる。そして、内側は肌に密着するスキンタイプの方が保温性に優れています。セミドライスーツはさらに効果が大きいですが、ドライスーツの断熱効果は桁違いの保温力があり、またインナーによってその保温力を調節できる優れ者です。個人差にもよりますが、23度以下の水温ではドライスーツをお勧めします。

5、低体温症について

直腸の温度など、体の深部の体温は通常37度ぐらいですが、これが35度以下になることをハイポサーミア(低体温症)といいます。体温が35度以下に体が冷えると震えが止まらなくなり、体がうまく動かせない、意識の混乱、脱力が起きる。体温が34度になると会話が困難になり、知覚障害、記憶障害に陥る。さらに冷えてハイポサーミアが重症になると、体温の調節メカニズムが機能しなくなり、寒さで皮膚の血管が収縮していたのが止まります。そうすると止まっていた血流が戻り、震えが止まって一時的に気分が良くなりますが、その結果急速に体温が放熱され、意識障害に陥り、呼吸や脈拍が極端に遅くなり、最後には不整脈で死に至ります。

6、先生の知っている低体温症の患者、症例

最近のダイビング事故は漂流が最も多く、ダイビングの40〜60分間でハイポサーミアに陥るよりも、漂流によるハイポサーミアが問題になります。数年前、海外のボートダイビングで漂流したダイバーが数名いました。水面水温は17度。初めのうちは話をしたりして元気付けあっていましたが、漂流3時間ほどで誰もまともに口が利けないほどのハイポサーミアに陥ってしまいました。6時間ほどで捜索隊に救助されたときには誰も自力でボートにあがれず、意識がもうろうとしている人も。体を暖め、病院で手当を受けて命の別状はなかったものの、下調べをせず5mmワンピースのウエットスーツしか持って来なかった日本人1名だけが、入院治療となりました。

7、体温を奪いにくい工夫、道具。水中、陸上で

水中で体温の放熱を防ぐ方法は、とにかくじっとしていることが一番。水温25度以下では、体を動かすと熱産生量が多いにも関わらず、静かにしているときよりも体温が低下します。特に、両膝を両手で抱える胎児体位がよいといわれています。装備の点からは、フードが大切。頭部は最も血管収縮が起きにくい所だからです。また、グローブは着けていない方が手の血管だけでなく、四肢の血管も反射的に収縮し、その分熱損失が小さくなるといわれています。ですが、手先がこごえると指先の動きが効かなくなるので兼ね合いを考えて。冷えてエキジットしたら、暖かいシャワーや風呂にはいる、体を拭いて乾いたものに着替えるなどで暖をとれば回復します。

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